2009年1月14日水曜日

柴田哲孝「TENGU」

吉祥寺駅近くの啓文堂書店で、大きくスペースをとって平積みされており、さすがは同書店おすすめ文庫大賞第一位といった印象だ。そのうえ、第九回大藪春彦賞受賞作とくれば、購買意欲をそそられるというもの。期待を胸に購入し、一週間ほどで読破した。

結論からいえば、あまり評価はできない。多くの選者の評価を得たからこその受賞だろうが、個人的にはハズレを引いた気分だ。

文庫版の Amazon レビューを読んでみると、自分と似たような感想がいくつかあり、買うまえにチェックしておくべきだったと後悔している(単行本のレビューはチェックしていたのだが……調査不足)。

過去と現在を交互に織り交ぜながら、徐々に背後関係が鮮明になる構成は悪くないが、いかんせん話の展開が地味で遅い。中年男の哀愁と感傷にページを割くぐらいなら、ストーリーをぐいぐい引っぱる山場を用意してほしい。9.11 のテロを盛り込んでくる展開は意外性があり、これが文字通り起爆剤になるかと思ったが、不発だったようだ。これでは、わざわざこの事件をぶつけてくる意味が分からない。

説明的な会話が多く、ハリウッド的な台詞が更にテンポを悪くしている。映画のようなやりとりを狙っているのは分かる。ただし、下手なものでは逆効果である。

登場人物が類型的で、魅力に乏しい。後半になって、アメリカ的なものを愛しながら、アメリカは嫌いだ、と独白する主人公には、表現の意図は分かるものの、自己矛盾と欺瞞以上のものを感じられず、一気に醒めてしまった。また、ヒロインの彩恵子も千鶴も、男の勝手な理想像が投影された人形にしか思えない。特に彩恵子は、あれだけの体験をしていれば、もっと生々しく醜い一面をもっていてしかるべきでは?

しかし、本格ミステリや SF のファンとしては、破天荒な話を書こうとする姿勢は評価したい。もっとも、この作品は着地点を間違っている。シルクハットからハトを出してみせます、と宣言してハトを出しても、感心されこそすれ驚きはない。

事実関係を時系列に沿って整理し、読者にわかりやすく理解させる手腕は安定している。ノンフィクション作品も書かれているようなので、そちらは楽しめそうだ。

0 コメント: